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今朝の日経読んだ?って話 2020/04/21

日経新聞 私的ホットトピック

任天堂が「スイッチ」生産上積み検討

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記事概要

まず、本記事の大まかな内容について整理する。

  • 背景

    新型コロナウイルスの影響で外出自粛が続き、外に出ずに楽しむ方法としてゲームが注目されている。中でも家庭用ゲーム機の代表である「Nintendo Switch(以下スイッチ)」の人気が急上昇している。2020年3月末に発売された「あつまれ どうぶつの森」の人気も相まって品薄となり、メルカリなどのフリマアプリでは中古のスイッチが新品販売価格の2倍で売られるといった信じられない状況が続いている。

  • 任天堂の対応

    任天堂は4月14日に一時停止していたスイッチの国内出荷を再開するとしており、直販サイトで予約されたものは4月下旬から5月中旬に配送する予定となっている。

    しかし、スイッチの部品の多くは東南アジアで生産されており、東南アジアの活動制限措置の影響で思うように部品の輸入ができない状況となっており、明確にいつどれくらいのスイッチを納品できるかがわからないとのこと。

小学生並みの感想

材料費が云々とか、生産工程が云々とか、そういった諸事情をなにもわかっていない私がこの記事を読んだ際に思ったことは「今の売れ行きを見れば、スイッチの売り上げは明らかに伸びるんだからさっさと増産決定してればよかったのに」ということ。スイッチが品薄になったのは何もここ1ヶ月の話ではない。2月ごろからずっと品薄だったのだから、もっと早く増産を決定していればもっと売れたんじゃないのか、何をもたもたしているんだと考えた。

実を言うと私は、かねがね任天堂の対応は遅いと感じていた。

約一年半前に大乱闘スマッシュブラザーズシリーズの最新作がリリースされた。このシリーズは当然スイッチのコントローラーでプレイすることが可能なのだが、特有のコントローラー(通称GCコン)を使う方がプレイしやすく、多くのスマブラファン(特に昔からプレイしている人)はGCコン至上主義者と化していた。

任天堂のリリースした最新作は過去作品に登場したキャラクター全てが登場するということで、「スマブラをやっていたけど、やらなくなってしまった顧客層」(以下リターン層)を呼び戻すことに成功した。

すると何が起きるか。リターン層は新たにスイッチとスマブラとともにGCコンを新たに購入し、需要が激増したことでGCコンの品切れが起こった。その結果、GCコンはメーカーの希望小売価格である2500円の2,3倍で売買されるといったプレミアム化が起きてしまった。

といった具合で、とにかく任天堂はプレミアム化してもなかなか増産や生産再開といった対策を取らない。

さて、ここまで読むと、「何故任天堂の対応は遅いのだろうか」という疑問が浮かぶのではないだろうか。次節においてそこら辺についてみていこうと思う。

任天堂の対応はなぜ遅い?

自社工場を持たず、生産を委託しているから

任天堂はどうやらスイッチなどのハードウェアやアクセサリを自社の所有する工場ではなく委託して生産しているとのこと。そのため、作ろうと思った際にすぐ作ることができない状況であることは容易に想像できる。

現在、新型コロナウイルスの拡大防止のため、世界的に外出規制が行われ、多くの工場が操業を停止している。その影響もあって今回スイッチ増産を決定しかねている状況だという。

これに関しては、しょうがないかなと思う。

慎重な経営戦略 キャッシュリッチ企業

ここからは私の想像だが、任天堂は投資を抑えて現金保有を多めにしている傾向があり、やや慎重な経営戦略をとっていると考えられる。

私がそう感じた理由としては、財務諸表による分析の結果なのだが、覚えたての人間がちょっと調べた程度のものなので、そこはご理解いただきたい。

キャッシュフロー計算書

まず、キャッシュフロー計算書(CF)とよばれる財務諸表の数字によると、任天堂は投資にあまりお金を回していないことが窺える。

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入社一年目で知っておきたかった会計の基礎4 より

上のグラフは任天堂キャッシュフロー計算書を可視化したものである。

営業キャッシュフローを見ると本業による収益がどれだけ出ているのかがわかる。

投資キャッシュフローをみると有価証券の売買や工場を作るなどの投資にどれだけお金を使っているのかがわかる(マイナスが大きければ大きく投資していて、プラスだと有価証券の売買益が出ていたりする)

最後に財務キャッシュフローを見ると負債の返済を行っているのか、銀行等からお金を借り入れているのかがわかる(マイナスなら返済、プラスなら借り入れ)

さて、以上のことを踏まえてもう一度任天堂キャッシュフロー計算書を見ると、本業によって得た1705億円に対して、投資資金は453億円のマイナスとなっておりやや投資のための資金が少ないと言える(ちなみに日本の大手企業は約60%は営業CFの額と投資CFの額の絶対値が同じとなっている)

このキャッシュフロー分析から、任天堂は投資に消極的で、とにかく安定を重視した経営戦略をとっているのではないかと考えられる。

貸借対照表

次に貸借対照表について。任天堂は、現預金と短期有価証券を合わせた金額が有利子負債を上回っており、実質無借金という「キャッシュリッチ企業」の代表だと言われている。このキャッシュリッチ企業は、コロナショックのような不況時でも資金繰りの不安が小さくなり、非常に経営基盤が安定するという特徴がある。ただ、とにかくお金をためておいておけばいいと言うわけではなく、内部留保率(≒貯蓄率)が高すぎると、株主に還元しろと言われたり、成長性がないと言われてしまいかねないのだが、任天堂はそこら辺はうまくやっているみたいだ。

任天堂のようなゲーム会社は新作の売れ行きを見極めるのが難しく、好不調の波もある。仮に新作が不振でも次のゲームに開発費を確保するために、なるべくキャッシュを蓄える任天堂の姿勢は堅実なものと言えるだろう。

ちなみに、このキャッシュリッチ企業に関しては「逆風下の決算ここがポイント(2)現預金手厚く、有事の流出に備え 」という記事にて紹介されていた。

任天堂経営戦略の考察

結論としては

  • 財務の安定を最重要事項としており、工場などの投資には消極的。そのため安定した収益基盤を実現しているが、それと引き換えにハードウェアの品薄などの生産台数のコントロールに難あり
  • とにかく現金など流動資産(何かあったときにすぐに支払えるお金)が多く、不況時にも債務不履行の心配が少ない。そのため有事の際にも先々のことを考える余裕がある

といったことが見えてきた。

実際、任天堂の株価は3月中旬ごろまでは下落傾向にあったが、まさにV字回復を遂げている。

チャート画像

今では年初来の高値を更新しており、任天堂の経営戦略がうまくはまった瞬間となりそうだ。


以下補足...

一応比較対象がないとあまりイメージがつかないかと思うので、家庭用ゲーム機のプレイステーションを開発している「ソニー」の株価チャートも載せておく。ソニーは音楽事業やゲーム以外の家電等さまざまな事業を手掛けており、一概に同じ業界として比べるのもいかがなものかと思ったのだが、まあ任天堂スイッチに対抗できるのはプレステだろうということで...

チャート画像

ソニーも順調に回復しているように見えるが、年初来高値である8000円から見るとまだ15%強下落した状態となっており完全な回復には至っていない。img

ちなみにソニーキャッシュフロー計算書はこんな感じ、いわゆる日経大手企業といった姿が窺える。